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 楽天の
田中和基外野手(24)が、6月から「1番・中堅」としてレギュラーに定着した。80試合に出場し、打率・286、16本塁打、19盗塁。2年目ながら新人王候補に挙がる。近い将来、スイッチヒッターでは02年の松井稼頭央(西武)以来となるトリプルスリー達成の可能性を秘める逸材。左右両打席、さらに走塁の創意工夫に迫った。 (構成・黒野 有仁)

 元々、右投げ右打ち。箸もペンを持つのも右手。利き目も右だ。「自然にできるのが右。何も考えず無意識で打っている」。同じ両打ちの大先輩・松井とは、昨季は自主トレを共にする。その松井も右打席では本能を重視し「アホでバカな自分を出す」と表現するが「その感覚は分かりますし、そういう話をしたこともあります」と共感している。

 ただ、スイングに入るまでは工夫を重ねる。今季は開幕を1軍で迎えたが、不振から2軍落ち。そのとき、池山2軍監督の「(エンゼルスの)大谷でもノーステップで打っている」という助言もあり、「球に当てないと意味がない」と左打席と同じようにノーステップ打法に変えた。

 従来の打ち方ではタイミングが合わないと、手が出ずに見逃すことが多かったが、“ズレ”に対応できるようになり「待っていない変化球が来てもバットを出せるようになった。積極的に振れるようになった」。手数が増え、成績も上昇した。

 左打ちは対照的に繊細だ。相手投手や球種によってバットの持ち方や構えを変える。例えば、ソフトバンク・バンデンハークのように最速156キロを誇る速球派の場合、バットを持つ両手を指1本分空ける。「ヘッドを立てて、球威に負けないように」と説明する。

 逆に変化球投手の場合は両手をつけて手首の柔軟性を確保し、落ちる球にも対応する。さらには上体を低く沈み込ませる。「チェンジアップをうまく使われると、上体を崩されて、前に出されてしまう。低く構えれば、前に出されても膝が割れないから打てる」。土台をしっかり保つことで、当てるだけの打撃になることを防ぐ。

 速球、変化球ともに優れた投手の場合は、それを組み合わせる。「(ロッテの)涌井さんの時は上体も低くして、指も空けた。変化球は左手を離しながら、右手で打つ。直球が来たら左手を強く握って、左手で打つイメージ」。投手の手から球が放たれた瞬間に即座に対応しはじき返す。

 最も意識を置くのはスライディングだ。1年目のキャンプから滑る距離を短くする練習を積んできた。地面の抵抗を受けることでスピードが落ちるのを防ぐ目的だが、もうひとつある。「スライディングの距離を短くすれば遊撃手の捕球の動きまで見ることができるので、よけやすくなる」。遊撃手の動きを見やすくするために右足を先に出す。

 50メートル走は高3時に5秒9を記録した。ただ、高2の時は6秒4で「足を売りにできるほどではなかった」という。3年になる直前の3月31日に左足首の2カ所を骨折する大ケガを負った。リハビリでは左足の指で、床に敷いたタオルをつかむ動きを一日100回以上繰り返した。その結果、地面をつかむ力が強くなった。「右利きだが、爪先で踏ん張る力は左の方が強い」。リードは13足分。スパイクは27・5センチで約3メートル57の位置にその右足を置く。そして、「ケガの功名」で強くなった左足で爆発的なスタートを切っている。

 《平石監督代行 性格も高評価》 平石監督代行も田中の新人王獲得を期待する。6月17日の代行就任以来「1番・中堅」で起用し続けており「チャンスがある以上、狙ってほしい」と話し、「長打力があって、走って守れる。性格的にもチームを引っ張っていけるものがある」と絶賛した。一定の目安になる規定打席(443打席)到達まで残り25試合で93打席が必要だが、チームとしても後押しもする。